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笹川汎アジア基金
「日越地方市民団体交流」事業から得たもの
カテゴリー区分 その他
発行
著者/編者 Le Thi Thang Ly (Ms.)
Former Member of the Executive Secretariat
The Vietnam Peace and Development Foundation
ベトナム人の日本観は、「巨大な経済ポテンシャルと長い歴史に育まれ、豊かな文化を持った高度先進国で、賢く、創造的で勤勉な人々の国」というものである。同じく勤勉な民族であるベトナム人は、戦争の負の遺産から脱却し、世界の先進諸国に追いつきたいと願っている。この思いを実らせ、目標を一刻も早く実現させるために、ベトナム人は世界中の貴重な経験に学ぶべきである。このように、国の発展と、生活水準の改善を目的とした学習・経験共有の取り組みへのベトナム人の高い意欲を支えているのが、笹川平和財団による「日越地方市民団体交流」事業の助成である。

2006年より、ベトナムの中でも非政府機関からの援助に恵まれない貧困地域と見なされている3つの省(ハティン省Ha Tinh province、クアンナム省Quang Nam province、ヴィンロン省Vinh Long province)の代表団が日本で視察訪問を行ってきた。その際、多くの分野での交流が可能かつ有益であることが判った。例えば母子保健、歯科衛生、生活排水を河川に流す前のマイクロバイオテクノロジーによる浄化処理、廃棄物の収集と管理、淡水パールの養殖と水草の植え付けによる濁水の浄化、上総掘りによる井戸掘削、有機農産物の生産と市販化、道の駅システムの構築と運営などだ。

これまで3年間の事業を進める中で、ベトナムの市民団体である大衆団体と日本人代表団の間で交流が行われた。25人のベトナム側代表が日本を3回視察訪問し、12人から成る日本人代表団が3度訪越している。ベトナム代表団は、千葉、奈良、愛媛の各県にある有機農法の農地や千葉県内の道の駅を、日本側は事業に参加したベトナム3省内の野菜生産地域と自然発生的な民間レベルのロードサイドステーションを、それぞれ視察・見学した。

日本人代表団との交流をより効果的に行うため、ベトナムでのプロジェクトの活動を3省のうちの1省に集中させることが、日越双方からの提案で決まった。クアンナム省(Quang Nam province)がベトナムにおいての交流地に選ばれ、事業の2、3年目にはハティン省とヴィンロン省(Ha Tinh and Vinh Long provinces)の代表者も当地で事業に参加した。日本人代表団は、ベトナム側の関係省庁の人々と交流する中で、地元の行政機関の支援がないままベトナムの大衆団体と直接交流を行ったとしても、具体的な活動に結び付けるのは困難との認識に至った。多くの課題は官民共同で取り組まれるべきである。例えば、有機農産物の生産における日越双方の人民の知識や経験を現実に生かすのは、地方の当局が生産活動のための潅漑と電力システムを提供している、特定の地域においてのみ実践できる。地方当局も関係機関と共に商標と生産品の品質証明などの開発に重要な役割を担う。

日本で成功している農民は、ベトナムの農民と、ある非常に基本的で単純明快なことを経験共有したいと願っていた。それは、農民が社会に対して負っている責任の自覚ということだ。農業・農村開発は、都市化及び農村から都市への人口移動のプロセスの中で非常に重要である。昨今、食の安全、環境災害、健康への脅威が全人類にとっての喫緊の問題となっている。農業開発は、農民各人の社会的責任を出発点とすべきである。農民は、自分が日常的に消費するのと同じ農産品を社会に供給し、大都市に住む人々が夢見る汚染のない清らかな環境を保全すべきである。農民が都市に移り住むのではなく、人々が農村を愛し、ふるさとの発展に貢献するようにさせるべきなのだ。

現地視察と討論を経て、日本人代表団はベトナムの農民も安全な有機野菜について一定の理解を持っているとの認識に至った。ベトナムの農民は、家族用には別途野菜を作っており、それに比べると市場で売る野菜の方が農薬と鮮度保持剤の作用ではるかに見た目が良いにも関わらず、自ら口にはしない。生産コストが低いため、非安全作物のもたらす収益の方が安全な野菜よりも大きい。貧困の中、農民は消費者の健康よりも作物で稼ぐ利益を増やすことに腐心している。ベトナムでは消費者の大半が低所得者層にあり、そうした野菜の危険性と知ってはいても、高価で汚染のない野菜を家庭で消費する余裕がないのだ。新鮮で安全な農作物を求める消費者も少ないながら存在するが、生産者と消費者の間の信頼関係がない。さらに利益目的から、非安全な野菜を安全な野菜と同じ高値で売る場合もあり、「病買いの銭失い」ともいうべき結果を招いている。日本側がベトナム人に克服して欲しいと願っているのはこうしたジレンマだ。需要と供給というものがあるわけだが、これをどう適合させるのか、安全な野菜を作る農民にはどうやって収益を上げさせ、どうやって信頼できる安全な野菜生産者を分別できるのか?日本側代表団は、女性の果たす役割に注目し、ベトナムで安全な野菜の流通システムを作り出せるのか詳細に示した。まず、地方の女性組合Women Unionや農民組合Farmer Unionなどの大衆団体の取り組みから始める。女性は、生産者であると同時に消費者であり、そうした大衆団体にも活発に参加しており、地元政府の支援があればクリーンな環境と安全な食べ物について人々の意識を高める力になれる。地方のメディアは、安全な作物の生産・消費によって自然と健康を守るのがいかに重要なことか、読者や視聴者に訴える力がある。地方政府当局は地方の関係各機関に、国家農業農村開発省の標準命令ならびに欧州のEuro GAP(農業生産工程管理)やグローバルGAPに依拠した農作物の安全基準の整備・公布を義務づければよい。地方政府は安全な野菜向けに分別管理された耕作地に、適切な潅漑設備を提供したり、その農作物を売り出す場を提供するなどして、優遇措置を取ればよいだろう。

このプロジェクトの活動中、日本側の助言を受けながら、クアンナム省(Quang Nam province)で、現地の農民によって運営される、安全な野菜のための「農民売店」の実験店舗が立ち上げられる予定である。この農民売店は生産者と消費者の信頼関係構築のためのパイロットモデルとして、本事業に参加しているベトナムの省内で増やしていく予定になっている。

日本側のプロジェクト参加者は、ベトナムの幹線道路沿線に道の駅を展開していく多くの需要があると見た。現状のロードサイドステーションは、旅行者やドライバーの安全運転と気分転換を目的として建設されている。民間による営利目的のものであり、質の高いサービスが提供されるわけではない。日本の道の駅のシステムは、地域の経済・観光開発と文化的発展を目指す地元民と地方自治体の取り組みがうまく合体した優れた例である。地方自治体は、この開発モデルをインフラと一定の免税措置によって支えている。地元民は立ち上げ当初から参画した。道の駅でどんな産品を販売するかは屋舎の設計に先立って決められた。そうした経緯から、ベトナム側との経験共有活動の中で、日本側参加者は常にソフトの重要性を強調し、自分たちがどうやって困難や失敗を乗り越えたかを語っていた。間違いや失敗から学ぶのも、成功への優れた近道である。千葉県内で数カ所の道の駅をベトナム代表団が視察した際は、大きな投資が必ずしも成功と利益を約束するものではないこと、むしろ重要なのはそれぞれの地域が持つユニークな特長を失わず、地元の産品を支援しながらの事業運営であることを学んだ。人々が進んでイニシアチブを取るところほど成功も大きくなる。地方政府の資金だけでなく、自分たちも投資をすることで、地域の人々は道の駅という事業により大きな責任を感じ、創造的に事業を営むようになるだろう。各道の駅には客・来場者を引きつけるようなユニークな産品とサービスがなければならない。一般論としては、道の駅は地元の小規模小売店との競合を避け、事業の採算が取れるように自らの競争優位性を最大限に発揮しなければならない。

「日越地方市民団体交流」事業の主な目的は高いレベルで達成されている。日本の人々は、安全な有機農産物の生産と販売、道の駅の建設と運営においての失敗談と成功体験を、ベトナムの友人と率直かつ正直に分かち合ってくれた。日本側はベトナム側が速やかに国を発展させ、貧困から抜け出すことを願ってくれている。経験共有活動は、飾り気のない言葉で、友好的な雰囲気の中で行われた。ベトナム側参加者は今後も交流の機会を持ち、相互に学び合いたいという意欲を示した。このような交流は、両国の文化理解にとっても価値が高い。本事業の参加者は人間関係の構築力を最大に伸ばし、両国の地方と地方の関係を作っていく基盤となるだろう。

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